絵心不要 アート思考で日常を観察し、ビジネスの新しい視点を発見する
日常の中に眠る「新しい視点」を見つけるアート思考
既存の企画に行き詰まりを感じたり、プレゼン資料がマンネリ化してしまったりと、ビジネスの現場では常に新しいアイデアや視点が求められます。しかし、「創造性を発揮する」と言われても、どのように具体的な行動へ移せば良いのか戸惑う方もいらっしゃるかもしれません。特に、「自分には絵心がないからアートとは無縁だ」と感じている方もいるのではないでしょうか。
しかし、ご安心ください。アート思考は、絵心や美術的センスの有無に関わらず、誰もが日常に取り入れられる思考法です。本記事では、日常生活の中にある見慣れたものや風景を、アート思考を通じて「新しい視点」へと転換する方法について解説します。これにより、ビジネスにおける課題解決や斬新な企画立案に繋がるヒントを発見できるようになるでしょう。
アート思考と日常観察のつながり
アーティストは、しばしば日常の中からインスピレーションを得て作品を創造します。彼らは、私たちが見過ごしてしまうような何気ない風景や物体に対し、独自の視点で深く向き合い、その本質や新たな意味を追求します。この「深く向き合う」という行為こそが、アート思考の根幹にある考え方の一つです。
ビジネスにおいては、常に変化する市場や顧客のニーズ、競合の動向など、膨大な情報に囲まれています。このような状況で本質を見抜き、他とは異なる価値を創造するためには、表層的な情報に流されず、物事を多角的に捉える「新しい視点」が不可欠です。日常の観察を通じてアート思考を実践することは、この「新しい視点」を獲得するための有効な訓練となります。見慣れた日常を意識的に見つめ直すことで、既存の固定観念から解放され、新たな着想を得るきっかけが生まれるのです。
日常をアート思考で観察する3つのステップ
それでは、具体的にどのように日常を観察し、ビジネスに活かせる新しい視点を発見すれば良いのでしょうか。ここでは、すぐに実践できる3つのステップをご紹介します。
ステップ1: 意識的な「脱自動化」
私たちは普段、多くのことを無意識のうちに「自動処理」しています。通勤路の風景、毎日使うオフィスの備品、会議室の椅子など、これらは脳が効率化のために「見慣れたもの」として処理してしまい、細部まで意識が向かないことがほとんどです。
アート思考における最初のステップは、この自動処理から意識的に脱却し、見慣れたものを「初めて見るもの」として捉え直すことです。
- 実践例:
- 普段利用するカフェの店内を、初めて訪れる外国人の視点で観察してみる。
- 通勤電車の中吊り広告を、掲載企業の担当者になったつもりで「本当に響くのか」という視点から分析する。
- 自社の製品パッケージを、ライバル会社の社長が初めて見たときの印象を想像して評価する。
問いかけの例: * 「もしこの[対象物]が、まったく別の用途に使われるとしたら、どのような可能性があるだろうか。」 * 「この[対象物]を構成する色、形、質感、機能の中で、最も特徴的な要素は何だろうか。」 * 「もしこの[対象物]が存在しない世界だとしたら、何が代替されるだろうか。」
ステップ2: 要素の「分解と再構築」
見慣れた対象物を「脱自動化」して観察したら、次にその対象を構成する要素に分解し、それぞれの機能や意味、関係性を深く探ります。そして、それらの要素を異なる組み合わせで「再構築」する可能性を模索します。これは、既存の枠組みを一度壊し、新しい価値を生み出す思考プロセスです。
- 実践例:
- プレゼン資料を、文字情報、画像、レイアウト、話す順序といった個々の要素に分解する。そして、「文字は一切使わず画像だけで構成したら?」「物語形式で進めたら?」など、再構築の可能性を考える。
- 自社が提供するサービスを、「機能」「価格」「サポート」「ユーザー体験」といった要素に分解し、「もしサポートを全くなくす代わりに価格を半分にしたら?」「ユーザー体験を最優先し、機能は絞り込んだら?」など、新しいサービスモデルを検討する。
問いかけの例: * 「この[対象物]を構成する要素を5つ挙げるとすれば何か。」 * 「それらの要素を、異なる順番や配置で組み合わせたら、どのような新しい意味や機能が生まれるだろうか。」 * 「もしこの[対象物]から、ある要素を一つ取り除いたとしたら、何が失われ、何が残るだろうか。」
ステップ3: 感情や感覚の「言語化」
観察し、分解・再構築のプロセスを経る中で得られた、漠然とした感情や感覚、気づきを具体的に言葉にしてみましょう。なぜそのように感じたのか、どの点が特に興味を引いたのか、既存の認識との違いは何かなどを深掘りします。この言語化のプロセスは、曖昧なインスピレーションを具体的なアイデアへと昇華させる重要なステップです。
- 実践例:
- 「今日の通勤路の電車の窓から見た風景は、いつもと違って『ぼんやりとした不安』を感じた。なぜだろう?いつもより空の色が鈍く、建物の影が濃かったからか。これは、新しい広告のトーン&マナーに活かせないか?」
- 「カフェの椅子は、座り心地が『硬くて冷たい』と感じた。しかし、そのおかげで回転率が上がっているのかもしれない。顧客の滞在時間をコントロールするデザインという視点があることに気づいた。」
問いかけの例: * 「この[観察結果]から、具体的にどのような感情や感覚が湧き上がったか。それはなぜだろうか。」 * 「この[気づき]を、もしビジネスの文脈で表現するとしたら、どのような言葉が適切だろうか。」 * 「この[感覚]は、顧客のどのようなインサイトやニーズに繋がっている可能性があるか。」
日常観察からビジネスアイデアへ繋げる実践例
田中慎太郎さんのような企画営業マネージャーが、これらのステップをどのようにビジネスに応用できるか、具体的なシナリオを考えてみましょう。
シナリオ: マンネリ化したプレゼン資料からの脱却
田中さんは、既存の企画提案資料がいつも同じ構成で、クライアントに新鮮な驚きを与えられていないと感じています。
- 脱自動化:
- 普段何気なく見ている雑誌やウェブサイトの広告や記事のレイアウトを、「この情報を最も効果的に伝えるにはどうすれば良いか?」という視点で、まるで初めて見るかのように徹底的に観察します。特に、目を引く見出しの配置、写真の使い方、余白のバランスなどに着目します。
- 分解と再構築:
- 観察した広告や記事の要素(キャッチコピー、メイン画像、グラフ、ボディコピー、余白)を分解し、プレゼン資料の構成要素(提案内容、データ、顧客メリット、導入、結論)と照らし合わせます。
- 「もし、この雑誌の導入部の写真のように、一枚の強烈なビジュアルでクライアントの課題を表現したらどうか?」「ボディコピーのような説明を、あえて簡潔な箇条書きではなく、物語形式で展開したら?」など、資料の要素を新しい配置や表現方法で再構築します。
- 言語化:
- 「A社の広告は、たった一文で製品のベネフィットを直感的に伝えている。私たちの資料も、冒頭で具体的な課題解決後の顧客の姿を『イメージさせる言葉』で表現すべきではないか?」といった気づきを言語化します。
- これにより、「データ先行ではなく、まずクライアントが抱える感情的な課題に訴えかける導入から始める」「一枚のスライドに情報を詰め込みすぎず、余白を活かして視覚的なインパクトを高める」といった具体的な改善案が生まれるでしょう。
このように日常観察を通じて得られた「新しい視点」は、単なる表面的な改善に留まらず、プレゼンの本質的な目的(クライアントに響く提案)を再定義するきっかけとなるはずです。
まとめ
アート思考を日常の観察に取り入れることは、絵心や特別な才能がなくても、誰でも実践できる新しい視点発見のトレーニングです。見慣れたものから意識的に距離を取り、要素を分解し、感情を言語化するプロセスを通じて、私たちは固定観念を打ち破り、創造的なアイデアを生み出す力を養うことができます。
日常の中に隠された無数のヒントを見つけ出し、ビジネスの課題解決や新しい価値創造に繋げていく一歩を、今日から始めてみませんか。この思考法は、きっとあなたのビジネスに新しい風を吹き込み、チームメンバーの創造性を刺激するきっかけとなるでしょう。