チームの企画力を高める!アート思考を応用した実践ワークショップの具体例
既存の企画が行き詰まりを感じ、チームのプレゼン資料もマンネリ化している。そのような状況で、クライアントに響く新しい提案を生み出し、チームメンバーの創造性を引き出すことは、多くのビジネスパーソンにとって重要な課題です。実は、この課題を解決する鍵が「アート思考」にあります。
アート思考は、絵を描くセンスや専門的な美術知識を必要としません。日常の事象やビジネス課題に対して、常識や固定観念に縛られずに多角的な視点からアプローチし、本質的な問いを立てる思考プロセスを指します。これをチームでのワークショップに取り入れることで、新たなアイデア創出や課題解決に繋がる創造性を育むことが可能になります。
アート思考ワークショップがチームにもたらすもの
アート思考を応用したワークショップは、チームに以下のようなメリットをもたらします。
- 多様な視点の獲得: 参加者それぞれの独自の視点や解釈を引き出し、チーム全体の視野を広げます。
- 固定観念の打破: 普段当たり前だと思っていることや常識に対して「なぜ?」と問い直すことで、新しい可能性に気づきます。
- 対話の活性化: 正解を求めない自由な発想の場が、メンバー間の活発なコミュニケーションと相互理解を促します。
- 本質的な課題の発見: 表面的な問題にとらわれず、課題の根本にある構造やニーズを深く探求する力が養われます。
絵心がない方もご安心ください。大切なのは、表現の巧拙ではなく、思考のプロセスとその共有です。
実践ワークショップの具体例1:見慣れたものに新しい意味を見出す「再解釈ワーク」
このワークショップは、既存の製品やサービス、あるいは市場データといった「見慣れたもの」に対して、新しい価値や意味を見出すことを目的とします。既存の企画や事業のテコ入れ、新たな付加価値の創出に有効です。
目的
既存の製品、サービス、顧客データなどに対して、チームで多角的な視点からアプローチし、新たな価値や意味、潜在的な可能性を発見します。
準備
- 対象となる「見慣れたもの」(例:自社の主力製品、特定の顧客層、競合他社のサービス、市場の統計データ、日用品など)
- ホワイトボードまたは模造紙
- 付箋、マーカー
進め方
- 対象の選定と提示: チームで再解釈したい具体的な対象を一つ選び、全員に提示します。例えば、「自社の最も売れている商品」や「顧客からのクレームが多いサービス」などが考えられます。
- 個別観察と要素分解(10分):
- 選定した対象を、まるで初めて見るかのように注意深く観察します。
- 参加者は、対象について思いつく限りの要素(色、形、素材、機能、歴史、使われるシーン、音、匂い、感情的価値、顧客の反応など)を付箋に書き出し、ホワイトボードに貼っていきます。
- この段階では、評価や解釈は加えず、純粋な事実や気づきのみを書き出します。
- 問いかけと発想(15分):
- 要素が出揃ったところで、ファシリテーターが「もしこの対象が〇〇だったらどうなるか?」「この対象の最も意外な側面は何か?」といった、固定観念を揺さぶる問いかけをします。
- 例: 「もしこの商品は、実はまったく別の目的で作られたものだったら?」「このサービスを、まったく違う世代の人が使ったら、どんな価値を見出すだろうか?」
- 参加者はこれらの問いに対して、自由にアイデアや解釈を付箋に書き出し、ホワイトボードの要素と関連付けて貼り付けます。
- 要素が出揃ったところで、ファシリテーターが「もしこの対象が〇〇だったらどうなるか?」「この対象の最も意外な側面は何か?」といった、固定観念を揺さぶる問いかけをします。
- 共有とディスカッション(20分):
- 各自が書き出した新しい解釈やアイデアについて、チーム全体で共有し、議論します。
- 「なぜそう考えたのか」「そのアイデアからどんな可能性を感じるか」などを深掘りします。
- ビジネスへの応用案検討(15分):
- 議論の中から特に興味深い、あるいはビジネスに応用できそうなアイデアをいくつか選びます。
- そのアイデアが、既存企画の改善、新商品開発、新たなプロモーション戦略、顧客体験の向上などにどのように繋がるかを具体的に検討します。
期待される効果
既存の資源や情報に新たな光を当て、差別化のヒントや未開拓の市場ニーズを発見するきっかけを作ります。マンネリ化した企画に新鮮な視点をもたらし、チームの創造性を刺激します。
実践ワークショップの具体例2:視点を「転換」し、本質的な課題を発見する「立場変換ワーク」
このワークショップは、特定のビジネス課題に対して、様々な立場になりきって考えることで、普段は見落としがちな本質的な課題や潜在的なニーズを発見することを目的とします。クライアントへの新しい提案や、顧客体験の改善に繋がります。
目的
特定のビジネス課題やプロジェクトに対し、顧客、競合、未来のユーザー、あるいは全く異なる分野の専門家といった「異なる立場」になりきることで、多角的な視点から本質的な課題や未発見のニーズを特定します。
準備
- 特定の課題またはプロジェクト(例:新サービスの市場導入、既存サービスの顧客離反対策、プレゼン資料の改善)
- ホワイトボードまたは模造紙
- 付箋、マーカー
- 役割カード(例:「未来の顧客」「競合企業のCEO」「5歳の子供」「環境活動家」「AI研究者」「アーティスト」など、多様な視点を持つ役割を複数用意)
進め方
- 課題の提示(5分):
- チームで取り組む具体的なビジネス課題やプロジェクトを明確に提示します。
- 例:「次回のクライアント向けプレゼンを、どうすればもっと魅力的にできるか?」
- 役割カードの配布(5分):
- 各参加者に、ランダムに役割カードを1枚配布します。
- 役割カードは後で交換できるように準備します。
- 役割になりきって思考(15分):
- 参加者は自分の役割になりきり、「もし私がこの立場だったら、提示された課題について何を考え、どのように感じるか?」「どのような提案をするだろうか?」という視点でアイデアを付箋に書き出します。
- 絵心は不要です。思いつくまま、自由に発想を広げることが重要です。
- 役割交換と再思考(15分):
- 一度役割カードを回収し、別の役割カードを再配布します。
- 前の役割とは異なる視点で、同じ課題に対して再度アイデアを出し、付箋に書き出します。このプロセスを2〜3回繰り返すことで、より多様な視点からの意見を引き出します。
- 共有とディスカッション(20分):
- 全員が出したアイデアをホワイトボードに貼り出し、チーム全体で共有します。
- 「この役割だからこそ見えた視点は何か?」「意外な発見はあったか?」といった問いかけをしながら、活発な議論を促します。
- 本質的な課題と解決策の特定(10分):
- 議論の中から、課題の核心に迫る視点や、これまでに気づかなかった潜在的なニーズ、画期的な解決策に繋がりそうなアイデアを特定します。
- これらのアイデアを、具体的な企画や提案に落とし込むための次のステップを検討します。
期待される効果
顧客の潜在的なニーズや、競合がまだ手をつけていない領域、あるいは社会的な変化の兆候を早期に捉えることができます。マンネリ化したプレゼン資料に新しい切り口を与え、クライアントに響く提案へと進化させる力を養います。
ワークショップを成功させるためのポイント
これらのワークショップを効果的に実施するためには、いくつかのポイントがあります。
- ファシリテーターの存在: 参加者が自由に発言できる雰囲気を作り、議論が本質から逸れないように導く役割が重要です。正解を求めず、多様な視点を歓迎する姿勢を保ちます。
- 安心安全な場の設定: どのような意見でも尊重されるという安心感が、創造的な発想を引き出す上で不可欠です。批判的な意見ではなく、建設的な対話を促します。
- 「絵心不要」を強調: 冒頭で「絵を描く能力は一切不要」であることを明確に伝え、参加者の心理的なハードルを下げます。重要なのは、思考のプロセスとその表現です。
- 短時間での実施と具体的な目標設定: 長時間のワークショップは集中力を欠きがちです。各セッションを短く区切り、具体的なアウトプット目標を設定することで、生産性を高めます。
まとめ
アート思考を応用したワークショップは、特別なスキルや才能がなくても、チームの創造性を引き出し、既存の企画やプレゼン資料のマンネリを打破する強力な手段となります。多様な視点を取り入れ、固定観念にとらわれない思考を養うことで、あなたのチームはクライアントに響く新しい提案を生み出し、ビジネスの停滞を打破することができるでしょう。
まずは小さな一歩として、今回ご紹介したワークショップをチームで試してみてはいかがでしょうか。そこから、新しい視点と可能性がきっと見つかるはずです。